コラム

日本のAI戦略2024と今後の方針【後編】

国際連携と2030年代に向けたビジョン

はじめに

前編では、統合イノベーション戦略2024の全体像と国内のAIガバナンス体制について解説しました。
後編では、日本が主導する国際的な枠組み「広島AIプロセス」の進展と各国との連携強化、そして2030年代に向けた具体的なビジョンについて見ていきます。

広島AIプロセス: 日本主導の国際枠組みの進展

2023年5月のG7広島サミットで創設された「広島AIプロセス」は、生成AIに関する国際的な枠組みとして着実に発展を遂げています。
2023年12月に「広島AIプロセス包括的政策枠組み」が承認され、AI開発における安全性とセキュリティの確保、透明性と説明責任の重視、人権とプライバシーの尊重などの原則が示されました。
2024年5月には「広島AIプロセス フレンズグループ」が創設され、49の国と地域が賛同。2025年2月にはOECDでの運用が開始され、国際的な協力体制が本格化しています。

広島AIプロセスの具体的施策

この枠組みでは、AI関連企業が製品を市場に投入する前に独立した外部専門家によるチェックを受けることが推奨されています。
また、AIが生成したコンテンツに電子透かしを埋め込むことで、人間とAIが作成したものを区別できるようにする取り組みが進んでいます。
さらに、AI開発の各段階でリスク評価を実施し、継続的なモニタリング体制を構築すること、各国のAI安全機関が連携して脆弱性情報や評価手法を共有することも実践されています。

AISIネットワーク: グローバルな連携体制

日本のAISIは、米国NIST、英国AI Safety Institute、フランス、ドイツ、イタリア、シンガポール、韓国、オーストラリア、カナダ、EUなど世界各国のAI安全機関と緊密なネットワークを形成しています。
このネットワークでは、AI安全性を評価する国際的な基準の策定、最新の評価技術や脅威情報の交換、国境を越えたAI安全研究プロジェクトの実施、専門家の相互派遣やトレーニングプログラムの提供などが活発に行われています。

重点分野との融合

日本は、AI技術と他の先端技術との融合を積極的に推進しています。
量子コンピューティングとAIの融合による創薬や材料開発の革新、バイオテクノロジーとAIの組み合わせによる個別化医療の進歩、フュージョンエネルギーの実現に向けたAIによるプラズマ制御、新素材の探索と設計へのAI活用など、幅広い分野での応用が進んでいます。

2030年代に向けた具体的目標

日本は2020年代後半の日本人宇宙飛行士の月面着陸、2030年代のフュージョンエネルギー発電実証を目指しています。
2025年の大阪・関西万博では、日本のAI技術や未来社会のビジョンを世界に発信する予定です。
また、2030年までに年間25万人のAI人材を育成する目標を掲げ、初等教育から社会人のリスキリングまで包括的な人材育成戦略を実行しています。

課題と展望

現在も残る課題として、海外の巨大IT企業に対抗できる国産LLMの開発、大規模なAI開発に必要な計算資源の整備、高品質な日本語データの収集と活用、イノベーションを阻害しない適切な規制の設計、都市部と地方でのAI活用格差の是正などがあります。
一方、日本は製造業での高度な技術蓄積、プライバシーと倫理を重視する社会文化、高齢化社会における課題解決のニーズなど独自の強みを持っています。
これらを活かして「信頼できるAI」のグローバルスタンダードを主導していくことが期待されています。

まとめ

日本のAI戦略は、国内のガバナンス体制の整備と広島AIプロセスを通じた国際連携の推進という二本柱で着実に進展しています。
AI戦略本部の設置により、政府全体での取り組みがさらに加速しており、今後は具体的な施策の実行フェーズに入ります。
日本が「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」かつ「最も安全・安心なAI社会」を実現できるかは、産学官の連携、国際協力の深化、そして国民全体のAIリテラシー向上にかかっています。
2030年代に向けて、日本のAI戦略がどのように展開し、世界にどのような影響を与えていくのか、その動向に注目が集まっています。