コラム

【エンジニア向け】個人情報保護法・実務で注意すべきポイント

個人情報保護法の改正内容は“企業としての義務”として語られがちですが、
実際にシステムを作るエンジニアにとって重要なのは、

「設計・実装・運用の具体的にどこが変わるのか?」

という点です。

この記事ではエンジニアが実装でハマりがちなポイントを中心に解説します。


 

■ 1. 2022年:漏えい報告義務化が設計に直撃

2022年施行の改正で、 インシデントは “一定の場合原則報告義務” になりました。
これにより開発側の要件も増えています。

▼ エンジニアが影響を受けるポイント

● ログ設計が“法対応”の領域に

  • いつ誰が何にアクセスしたか

  • どの処理が成功/失敗したか

  • 外部APIとの通信ログ

など、事後追跡できるログ保持 が求められます。
ログがなければ「漏えいの有無を調査できず、結果報告が遅れる=法的リスク」になります。

● 「誤送信」「誤共有」も対象

メール送信機能、エクスポート機能、共有リンク生成など、
誤操作対策(確認ダイアログ、トークン管理、期限付きURL) が実装レベルで求められます。


 

■ 2. 不適正利用の禁止 → AI学習・分析の“目的外利用”に注意

2022年改正で「不適正利用の禁止」が追加され、
AI学習やデータ分析基盤の設計に直撃 しています。

▼ 実装で問題になりやすい例

  • 取得目的に書いてないのに学習データに利用する

  • 退会したユーザーのデータがモデルに残り続ける

  • 目的が曖昧なログ(行動履歴)を大量に溜め込む

  • サービス改善と称して個人特定可能なデータを横断集計

● エンジニアがやるべき対策

  • データレイクに “目的タグ” をメタデータとして付与

  • データ利用時に目的を検証する Data Governance レイヤの実装

  • モデル学習パイプラインから 除外対象(削除要求など)を反映

  • PIIの残留チェックを CI/CD や ETL で自動化

単に「法務が決める話」と思われがちですが、
実際には 設計とデータフローを理解しているエンジニアの仕事 です。


 

■ 3. 利用停止・削除請求 → バックアップ / ログ / 分析基盤が焦点に

2022年以降、ユーザーが削除を求めた場合の範囲が広がっています。
ここで困るのが バックアップやログはどうする問題

▼ エンジニアが押さえるべき実務ポイント

● ① バックアップの“技術的に削除が難しい”は理由になる場合あり

ただし

  • リストア後に個人データが復活しないようにする

  • バックアップ保持期間を必要最小限とする
    などの要件が必要です。

● ② ログの扱いは「個人を識別可能か」が鍵

  • 直接識別(メールアドレスなど) → 削除対象

  • ハッシュ化された識別子 → ケースにより残せる

  • 完全匿名加工 → 対象外

ログに 生のユーザー識別子を埋め込む設計はNGに近い です。
近年は 「内部IDはランダム化する」「個人情報はログに書かない」 がスタンダードになっています。


 

■ 4. 仮名加工情報の新設 → 社内分析の“安全な扱い方”が法律で整理

2022年で導入された「仮名加工情報」は、
エンジニアにとって データ分析の自由度が上がる便利な仕組み です。

▼ 仮名加工情報が実務で便利な理由

  • 氏名・連絡先を削除したデータで分析できる

  • 個人特定が困難なため漏えいリスクが下がる

  • 匿名加工ほど重い処理や審査が不要

  • 社外提供は不可だが、社内での機械学習・品質改善には十分

● 具体的にやること(エンジニア向け)

  • 変換パイプラインの実装(ID置換、キー削除、マスキングなど)

  • 元データとの復元キーを安全に保管

  • “社内分析専用ゾーン” などデータ区分の設計

特にデータ分析・MLチームと一緒に設計する場面が増えています。


 

■ 5. 海外サービス利用時の説明強化 → サードパーティ依存部分の可視化

クラウド/SaaSが当然の現在、
2022年以降は 「どこの国でどんな管理がされているか」 を開示する義務が強化されています。

▼ エンジニアに求められること

  • 使用する外部サービスのデータ保存国を調べる

  • 再委託(下請け)構造を把握

  • API利用時に PII が渡るかを把握

  • インフラ構成図を「データフロー図」として整備

エンジニアが理解していないとプライバシーポリシーが作れません。


 

■ 6. 2023年〜現在:AI・Cookieなど“運用レベル”のアップデート

法律本体の大改正はありませんが、
AI時代を想定したガイドラインが継続的にアップデート されています。

▼ エンジニアが特に見るべきポイント

  • AIモデルが個人情報を推論・復元しないか

  • Cookie・広告IDの扱い(透明性・オプトアウト)

  • データ削除要求へのシステム対応

  • SaaS利用時のログ・データ保存の確認

特に「LLMに個人データを入れて学習に使ってよいか?」は
目的外利用・第三者提供 に該当しうるため要注意。


 

■ 最後に:エンジニアは“法務が決めたルールを守る”だけでは足りない

2021年以降の変化を見ると、個人情報保護法は

  • システム設計の要件になる部分

  • データ基盤・AI開発に深く関連する部分

が増えています。

つまり、

エンジニアこそ法律を理解していないと実装が破綻する時代

になってきたということです。

(2025年11月更新)